祭り好きが集い、祭りのためのビールをつくる。「おいしい!」は、目的ではなく、スタート
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祭り好きが集い、祭りのためのビールをつくる。「おいしい!」は、目的ではなく、スタート

滋賀県蒲生郡日野町は、滋賀県の南東部、鈴鹿山脈の山麓から西へ広がる湖東平野に位置しています。歴史ある風景が残り、近江日野商人の「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」の精神が今も息づくまちとして知られています。田中宏明さんは、日野町で明治時代から続く酒屋「酢屋忠本店」の六代目。2018年1月に設立したクラフトビールメーカー「HINO BREWING(ヒノブルーイング)」の代表を務めています。

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日野祭りで培われる、地域のつながり

撮影/山﨑純敬(※)

「このまちの特徴は近所づきあいかな。やはり日野祭の影響は、大きいと思います」と、田中さん。現在、田中さんは、日野町に本社を置く「HINO BREWING」を、ポーランド人のショーン・フミエンツキさん、イギリス人のトム・ヴィンセントさんとともに運営しています。実はこの3人を結び付けたものも日野祭だったとか。

日野祭は、地元の馬見岡綿向(うまみおかわたむき)神社の例大祭850年以上の歴史を持つといわれ、5月2日の宵祭・3日の本祭には、まちが祭り一色に。氏子区域の各町内から十数基の曳山が神社の境内に集まり、神輿3基も繰り出す盛大なもので、そのため毎年4月ともなると町内ごとに力を合わせ、祭りの準備に余念がありません。

「僕も、ものごころついたときには関わっていましたね。子どもたちは、小太鼓や鉦(かね)の練習をするんですが、このとき教え・教えられしているうちに、近所の人と身内のような関係性が築かれます。他のエリアから引っ越してきた人から、『近所同士が親戚みたい』との声も聞きます」

運命的な出会いで意気投合

田中さんは3人兄弟の長男。家業を継ぐ前に一度、家を出ておきたいと考え、地元を離れ京都の大学へ進む道を選びます。その後、大阪のハウスメーカーや京都の町家再生事業を行う会社で経験を積み、10年前に日野町へUターン。ちなみに、地元を離れている間も日野祭の日には欠かさず帰っていたといいますから、祭り好きは筋金入りです。

そして、2017年の日野祭を終えた5月4日、田中さんに運命のときが訪れます。

「この年の春、トムが僕の住んでいる町内にある、築240年の屋敷が気に入ったと引っ越してきたんです。それで祭りのあと、親睦会がトムの家で行われました」。その席でトムさんから、「何かやりたいことは?」と問いかけられた田中さんがかねてからの夢だった「ビールをつくりたい」と答えたところ、居合わせたショーンさんが「僕、つくれるよ」と応じたそう。瞬く間に3人は意気投合したといいます。

「ショーンは2010年から日野で英会話教室を経営していました。顔見知りでしたがあまり話したことがなくて。だから彼が来日前にビールづくりの経験があり、実はかねてからビールを仕事にしたいとは知らなかったんです」(田中さん)

ミッションは、ビールを通じて祭りを下支えすること

撮影/山﨑純敬(※)

こうして思いがけないかたちで仲間が集い、クリエイティブディレクターとして活動するトムさんがブランディングおよび広報を、ショーンさんがビールの醸造を、田中さんが代表取締役として計画や営業をと、三者それぞれの役割を決め、日野町のクラフトビール会社「HINO BREWING」が誕生しました。設立の際には、3人で会社のミッションについて徹底的に話し合ったと田中さんは振り返ります。

「おいしいビール造りを追求することは、飲料メーカーとして当たり前。僕達は、ビールを手段に、祭りが抱える運営資金不足と人手不足の問題を解決することを、事業の目的にしました」

利益が出たら寄付を。そして、その先も見据える

〝祭り好きによる祭りの為のクラフトビール〟と銘打ったHINO BREWINGの製品の特長のひとつは、地域の特産品を使用したり、祭りの特徴を織り込んだりしている点です。ときには、果物や米、ハーブといった副原料を使い、個性あふれるビールも。また、たとえば日野祭のお囃子〝馬鹿囃子〟をイメージしたといいう「バカラガー」や、お神輿をかつぐ人の掛け声から命名した「ヤレヤレエール」「ドントヤレ」など、ユニークなネーミングでも興味をひき、購買欲をそそります。

 「利益が出たら寄付ができますし、そうすれば地域の人たちから応援してもらいやすい。だからこそ、売り上げは重要です」

 もう一つ、商品が注目されれば、ビールを飲みたいと思った人が、祭りやまちの情報に触れられる機会となることもポイントです。

「過去に、東京でビールのイベントを開催した際、来場者に日野祭のことを話したところ、興味を持った人が実際に10人ほど日本各地から訪れて、神輿をかついでくれました。また当店で週末にクラフトビールの角打ちとビールの量り売りをしているんですが、これを目当てに遠方から来てくれる人も。ここでの会話だけが決め手ではないかもしれませんが、移住先の情報収集をしていたお客さんで、日野町に住むことを決めた方もおられます」

田中さんは、この事業をどんどん真似してもらってもいいと考えていると話します。たとえ競合する内容だとしても、こうしたシーンの広がりが、全国の祭を支える機運になれば、と。しっかりと未来を見据えながらも、頑なではないミッションの捉え方は、ひとつの余白だといえるかもしれません。

不自由は、余白と言い換えられるかもしれない

最後に、もう一度、日野町の魅力について尋ねると、少し考えて「古いまちなみが壊れつつも、暮らしがしっかりと残っていること……かな」と田中さん。

日野町は最寄りの電車や高速道路などアクセス面をみると不便で、だからこそ大手のショッピングセンターなどが進出しないエリアだといいます。だからこそ、一見不自由な、このまちの、絶妙な取り残され具合が、吉に働くところもあるのではないか、と。

「大都市に比べて、我々のような個人商店が生き残りやすいというのは、実感としてありますね。ただ、僕が地元に戻ったころは、アクセスの悪さがマイナスに響いて閉店されるお店が多かったのですが、最近、新たなカフェなどが増えてきて、明るい兆しも見えています。新規でお店をオープンしたい方は、土地や賃貸料も安いぶん、トライしやすいのでしょうね」と話します。

不自由は、マイナスにも、追い風にも、どちらにも転じるもの。

「考えてみたら、うちの看板犬ロクも。かわいいけれど、今は忙しいから勘弁してほしい、っていうときも散歩に連れていかざるを得ない。でも、その時間がかえって良かったりもするんですよね」と、田中さんは微笑みます。

これも、余白アイテムかも、と田中さんが出してきてくれたのは、長期熟成が持ち味のクラフトビール「HINO Series」。「瓶内二次発酵」という手法を採用し、ビールとしてはアルコール分が高めの8%~10%。盆・暮れ・正月、そしてもちろん祭りの後など、家族や親戚、友人などとの集まりに、ゆったりと酌み交わすためのビールとして開発したそう。「通常のビールは1~2カ月で出荷できるんですが、これは瓶に詰めて約半年寝かします。僕たちにもある意味余白がないと、つくれないんです」

田中宏明(HINO BREWING 代表取締役、酢屋忠本店 六代目店主)

1983年、滋賀県生まれ。滋賀県立日野日野高等学校卒業後、京都芸術大学デザイン学部で環境デザインを学ぶ。同大学卒業後は、大阪のハウスメーカーと、京都の伝統文化の維持継承を目的とする会社に勤務。2013年、実家の酒店「酢屋忠本店」を継ぐため滋賀に戻る。2018年に、HINO BREWINGを設立。クラフトビールでの地域貢献を実践している。

HINO BREWING

インタビューを終え、まず感じたのが、5月の日野祭を実際に見たいということでした。

帰途につく前、取材チームはめいめいビールを購入。ビールのボトルにプリントされているマスコットキャラクターは、日野祭の元宮に祀られているイノシシがモチーフだとか。このビールを誰かと飲む際、日野祭のこと、日野のまちのことを語るきっかけになるかも。そして話題は地元の祭にまで広がるかもしれません。これは、〝生粋の祭り好き集団〟と名乗る、HINO BREWINGの3人の戦略に、まんまとはまっている(笑)! 同社は、日野以外の全国の祭のオリジナルビールづくりの注文も受けているそう。ビールで全国の祭を盛り上げ、祭が地域を盛り上げる。滋賀から生まれた威勢のいい活動、これからも注目したいと思います。

編集=文と編集の杜
取材・文=市野亜由美
撮影=秀平琢磨(※除く)

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  • #HINO BREWING
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